夜の森に、ぱちぱちと焚き火の音が響いていた。
撫子は火を見つめながら、ぽつりとつぶやく。
……天狗さん。雷に打たれて、死ななかったの?

今回の考察回は、物語本編を読んだあとにじっくり感じてほしい内容です。
天狗と撫子の焚き火の対話を通して、物語の深層を一緒にたどっていきましょう。
まだ物語本編を読んでいない方はこちら → https://tamashii-crafts.com/memory-of-fire-火の記憶/

天狗はにやりと笑い、そっと薪をくべた。
それはね、“ちゃんと撚られてた”からさ。
撚られてた…? なにが?
魂さ。
しばらく沈黙が流れた。火のはぜる音が、空気をほぐすように響いている。
魂ってね、糸みたいなもんなんだよ。
まっすぐなままだと、風にほどけて切れやすい。
でも、願いや祈りと一緒にねじられていくと、だんだん強くなる。
それが“撚れる”ってことさ。

……願いや祈りと?
誰かとの約束でもいい。“こう生きたい”って気持ちでもいい。
そういう“結び”があると、人の魂は一本の紐みたいになって強くなるんだ。
じゃあ……ニギハヤヒ様の魂も?
天狗はゆっくりうなずいた。
あの人の魂は、撚れてたよ。
母さんとの約束、弟への想い、未来を変えたいって願い。
たくさんの想いが、ちゃんと撚られてた。

撫子は焚き火に手をかざしながら、小さくつぶやいた。
……じゃあ、雷に打たれても、消えなかったんだね。
そう。火ってのはね、ただ燃えるだけじゃない。
願いを運ぶ灯りでもあれば、試される“契約”でもある。
試される契約……?
契約ってのはね、言い換えれば「覚悟」みたいなものさ。
火を持つってことは、願いを叶えるってことでもあるだろ?
でもそれは同時に、“その願いが叶った現実”に、ちゃんと立っていられるかどうかが試されるってことなんだ。
手に入れることがゴールじゃない。
そこからが、本当のはじまりさ。

撫子は小さく息をのんだ。
……私にも、そんな火があるのかな。
あるさ。もう灯り始めてるよ。
お前の中にある火は、天から落ちてきたような神様の火じゃない。
地に根を張る火──誰かと、これからの生き方を結ぼうとする火だ。

撫子は、じっと火を見つめた。
風がふわりと吹いて、焚き火がかすかに揺れた。
天狗は立ち上がり、夜空を仰ぐ。
さて──神々の火が、どこから落ちてきたのか。
今夜はそこから話を始めようか。
撫子はゆっくり頷いた。
……うん。教えて、天狗さん。
【次回予告】
撫子と天狗の焚き火の夜は、まだ始まったばかり。
次回の考察回では──
天狗が語りはじめる「神々の火」の正体、そして火と祈りの本当の意味に、物語はさらに深く踏み込んでいきます。
なぜ、火は天から落ちてきたのか?
その灯りは、誰のためにともされたのか──
「神々の火が落ちた夜」
どうぞ、お楽しみに。
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